社長のコラム


“i”は地球を救う

2025.06.28

昔のドラマの話です。水戸黄門の印籠というものがありました。これが出ると、みんなが「へへー」と平伏して、文句を言う者はいなくなりました。

形而上の話です。現代社会における印籠とは、たとえば平和。あるいは人権。こういう言葉を出されると私の背骨が反応して「へへー」とひれ伏してしまいます。これらを基盤にして理屈を捏ねられたら反論できません。おっしゃるとおりだと思ってしまいます。

それは私が大多数の人と同じく、平和な状態が続くことを希求しており、人権は尊重されるべきだと奥底で感じているからです。

ただ私は、平和という単語も人権という言葉も口にしたくありません。印籠を出してもいいのは格さんだけだと思うからです。


さて、近年、そのような言葉が一つ増えました。

環境。はやりのSDGsで喧しく宣伝されるように、異常気象は毎年どこかで発生し、暑いときは異常なほど暑く、雨が降ったら異常な雨量になります。語り手たちの表情は深刻で、問答無用、環境問題を優先せざるは言語道断ならずやと要請するのです。

かねて、無駄遣いを減らしたり、ゴミを分別したり、個人の努力が大切なのはもちろんですが、文明生活を続ける以上それだけではきっと限界があり、何か飛躍的な技術の革新がなければと、IT業界の裾野にいる者として日に夜に、心を痛めております。

もう20年ほど前になりますか、ある夜のことでした。ふと思いました。


ITの基本単位はバイナリーデジット(binary digit)、略してビット(bit)、0か1かということですが、これをトリニティーデジット(trinity digit)、略してトリット、すなわち0と1と-1とにすれば如何と。

1ビットが1トリットになると情報量は1.5倍になります。一般的に8つのビットが集まると1バイトですが、1バイト(8ビット)と1トリート(8トリット)を比較すると1.5の8乗、つまり、1.5 x 1.5 x 1.5 x 1.5 x 1.5 x 1.5 x 1.5 x 1.5で、25.6倍です。1トリートは25.6バイトに相当するのです。

これぞいわゆる雪だるま式といわれる複利計算ではないか。2の10乗は1024で、これがすなわちキロバイトに相当しますが、3の10乗になると59049で、57.7倍。ということは1キロバイトが1キロトリートになると25.6 x 57.7で1478倍、1メガトリートでは25.6 x 57.7 x 57.7で8万5千メガバイト、1ギガトリートとなるとさらに57.7を乗じて5百万ギガバイト、さらに1テラでは3億倍になります。

つまり、現行1テラバイトの記憶装置は、そのビットをトリットに変換するだけで自動的に、3億テラバイトに相当する、1テラトリートの記憶容量を持つようになるのです。


べらぼうな青天井です。やがて0か1かで語っていたバイナリーの時代は終焉を迎えるでしょう。そして、0と1と-1と、トリニティーの時代に突入するでしょう。想像するだけで、わくわくいたします。

而して以って-1をどうやって作り出すのか、これが次の問題になります。電気回路は閉じているか開いているか、電位差は有るか無いか、0か1か、しかありません。

そこで出てくるのが“i”、平方すると-1になる数です。

0を平方すると、0 x 0 = 0。
1を平方すると、1 x 1 = 1。
iを平方すると、i x i = -1。
平方するという演算は、いわゆるAND回路にそれ自身を流せばいいわけですから容易です。平方演算回路という専用の回路を追加することになりますが、この回路を通過しても、0と1とで保持されている既存の情報は変化しませんので、互換性は完全に保証されます。


一つ、ここで注意しておきたいのは、1とiとは別腹であるため、0, 1, i のほか、1 + i という4つ目の情報区分も発生し得る点です。1 + i は平方すると実数部分は0になってしまいます。これは詮なく致し方なく、実装するときにはこのようなことがないよう制御しなければなりません。

それはともかく、この回路を取り付けるだけで、“i”を活用できるようになり、1テラが3億テラになり、地球環境に優しくなります。まさしく“i”は地球を救うのです。

そこまで考え、またふと思いました。本当に3億テラになるのかしら。1バイトは8ビット、2の8乗で256、1トリートは8トリット、3の8乗で6561、数の上では25.6倍は正しいのだが、情報量も25.6倍になるのだろうか、と。

そもそも2の13乗は8192だから13ビットは8トリットを上回ります。25.6バイトどころか、2バイトよりも1トリートの方が情報量は少ないのではないか。2バイトは16ビット、2の16乗は65536です。1トリートの8トリットである6561よりもはるかに多い。であるならば、その出発点から間違っていたのではないでしょうか。


すでにお気付きの方も多いのでしょうが、すべからくこの文章は与太話です。

2の10乗が1024でこれをキロバイトと言いますが、ビットがトリットになっても、3の10乗の59049にはなりません。1024個のデータの集まりであることに変わりはありません。

情報量ということからすれば、ビットで0か1かを保持する場所が3つあったとして、トリットならばそれが2つあれば事足りるのであって、それは2の3乗が8で、3の2乗が9だから、9あれば8はギリギリ事足りるのです。ということは、せいぜい1.5倍とちょっと、2倍以下の情報量しかないのです。3億テラバイトには到底ならぬものでありまして、それはせいぜい1.5テラバイト余り、2テラバイトにすら満たないのです。

“i”は地球を救う、というタイトルでこの文章を書き始めましたが、それにはもっと別の角度からのアプローチが必要であるようであります。

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